4K, 60Hz, YCbCr=4:4:4

テレワークに限らず、PC作業環境の要は画面に表示される情報量です。PCディスプレイ、今はPCモニタと呼ばれることが多い表示装置としては、ピクセル解像度も色空間も、扱える情報量が多いに越したことはありません。特にLCDパネルの微細化が進んだ最近では、WQHD(2560×1440)や4K(3840×2160)といった高解像度のモニタも安価になりました。トレンドとしてはWQHDよりも4Kのほうが安いぐらいの勢いで、これはもう4K環境を整える機が熟したといえます。なお、4K/30Hz については、PCのGUI環境としては使用に耐えないため、本稿では意識的に触れていません。

よく知られた話ですが、PCとモニタの間の4K映像データ伝送には、DisplayPort 1.2 以上、もしくは HDMI 2.0 以上の規格が必要です。プロ向けにDisplayPortが先行して普及したこともあり、一般向けHDMIは4K規格に対応する機運がなかなか盛り上がらなかった感があります。ようやく4Kに本格対応した HDMI 2.0 対応のビデオカードが一般に出回り始めたのは、ここ3年ぐらいと思います。

特にデスクトップPC向け Intel CPU の内蔵GPU、いわゆるiGPUは、Haswell + 80番台チップセット世代の Intel HD Graphics 4200 以降で、DisplayPortについては本格的に4K対応になっていますが、HDMIについては最新の Comet Lake-S でも未だに対応できていません。デスクトップ向けCPUラインナップに与えられた Intel HD Graphics は、2016年の Kaby Lake 世代から停滞している状況です。これは、PCI-Express拡張スロットを持つデスクトップPCについては、本稿の主題にもなっているビデオカード、いわゆるdGPUの選択肢が広く、かつ極めて高性能であるため、戦略的にデスクトップPC向けiGPUへの投資(具体的には HDMI 2.0 以上への対応)を放置していると考えられます。

一方で、PCI-Expressビデオカードを利用できないノートPCやNUC向けのCPUについては、2017年の Gemini Lake に内蔵される Intel HD Graphics 600/605 から HDMI 2.0 に対応し、HDMIでの 4K/60Hz 出力が可能になっています。

ここでの「4K本格対応」という言い方は、60Hz以上で YCbCr=4:4:4 or RGB 24bit 以上の信号を送れることを指しています。じつは、4K/60Hz であっても YCbCr=4:2:0 などにして、つまり色空間を間引いて伝送量を抑えれば、転送量は HDMI 1.4 規格でも収まります(具体的な製品例は下表参照)。言うなれば「なんちゃって4K」ですが、これはこれで有効な手段です。しつこく繰り返すと(笑)、30Hzや24Hzではレスポンス性能が使用に耐えませんが、60Hzであればそれは実用レベルになり、小さなフォントを凝視しなければ、色空間を間引いていることには(特に4Kでは)気づきにくいでしょう。

PC側を 4K/60Hz 環境にするには大まかに3つの選択肢があり、

  • 本体に DisplayPort 1.2 もしくは HDMI 2.0 以上の映像出力端子が付いているPCを使う
  • 4K/60Hz 対応のビデオカードを使う
  • USB接続の外部映像出力装置を使う

いずれかを選ぶことになります。ただしUSBのものは、いまのところ最新の USB 3.2 でようやく 20Gbps で、映像出力チップの性能も低く、対応製品もあまり無い状況ですので、実用を考えると選択肢には入りません。

PC本体は、中古で出回っているビジネス向けリースアップ品から上手に4K/60Hz対応のDisplayPortが付いているもの選べば、1万円程度で入手可能な状況です。これはとてもありがたいのですが、とはいえインテルCPU内蔵ビデオの性能は必要最小限であり、メインメモリの一部が映像処理用に取られてしまうので、ちょっとモヤっとします。実際にこのタイプのPCは、チップセットの世代による差異はあれども、メモリが足らなくなってくるとPCの挙動が不安定になる確率が少し高いように感じます。

そこでビデオカードの話です。相変わらず前振りが長い。所有するビデオカードを以下に挙げていますが、これには4K対応目的よりも前のタイミングで購入したものも含まれています。その時の目的は、子供用のテレビ兼用モニタとPCをHDMIで繋ぐこと、つまりPC側にHDMIポートを追加することでした。もうだいぶ昔のことなのに、運良くその Kepler 世代の製品が YCbCr=4:2:0 とはいえ4K/60Hz出力できるようになったというのはありがたく、そういうドライバをリリースしてくれたNVIDIAさんの見識はさすが。感服および感謝です。

Video Cards - PCI-Express, LowProfile, Single-Slot

ベンダカード型番GPUベンダ
[コードネーム]
チップ型番
メモリ出力ポート
(LPブラケット)
4K/60Hz対応
○YCbCr=4:2:0
◎YCbCr=4:4:4
SAPPHIRER5 230 1G DDR3
PCI-E H/D/V
AMD [Caicos]
Radeon R5 230
DDR3
1GB
HDMI 1.4a
DL-DVI-D
×
ZOTACZT-71112-10LNVIDIA [Kepler GK208]
GeForce GT 730
DDR3
1GB
HDMI 1.4
DL-DVI-D
○HDMI
玄人志向GF-GT710
-E1GB/LP
NVIDIA [Kepler GK208]
GeForce GT 710
DDR3
1GB
HDMI 1.4
DL-DVI-D
○HDMI
MSIGT 710 2GD3H
LP
NVIDIA [Kepler GK208]
GeForce GT 710
DDR3
2GB
HDMI 1.4a
DL-DVI-D
○HDMI
MSIR7 240 2GD3
64b LP
AMD [Oland Pro]
Radeon R7 240
DDR3
2GB
HDMI 1.4a
SL-DVI-D
×
NVIDIAQuadro K620NVIDIA [Maxwell GM107]
Quadro K620
DDR3
2GB
DP 1.2
DL-DVI-I
◎DisplayPort
HP
(OEM)
AMD Radeon
R7 430 LP 2GB
AMD [Oland Pro]
Radeon R7 430
GDDR5
2GB
DP 1.2 ×2◎DisplayPort
Lenovo
(OEM)
GeForce GT 730NVIDIA [Kepler GK208]
GeForce GT 730
GDDR5
2GB
DP 1.2 ×2◎DisplayPort
MSIGT 1030 2G
LP OC
NVIDIA [Pascal GP108]
GeForce GT 1030
GDDR5
2GB
HDMI 2.0b
DP 1.4
◎HDMI
◎DisplayPort
ELSAEQP620-2GER2NVIDIA [Pascal GP107]
Quadro P620
GDDR5
2GB
MiniDP 1.4 ×4◎MiniDP
AMDFirePro W4300AMD [Bonaire Pro]
FirePro W4300
GDDR5
4GB
MiniDP 1.2a ×4◎MiniDP
YestonRadeon RX550
4GD5 LP
AMD [Polaris 11 LE]
Radeon RX 550 (640SP)
GDDR5
4GB
HDMI 2.0
DL-DVI-D
◎HDMI
YestonRadeon RX560
4GD5 LP XL2
AMD [Polaris 21 XL]
Radeon RX 560 (896SP)
GDDR5
4GB
HDMI 2.0
DL-DVI-D
◎HDMI
玄人志向RD-RX6400
-E4GB/LP
AMD [Navi 24 XL]
Radeon RX 6400
GDDR6
4GB
HDMI 2.1
DP 1.4a
◎HDMI
◎DisplayPort

勘のいい人は気づくと思いますが、LowProfileかつ1スロットに収まるタイプのカードばかりです。このタイプはあまり選択肢が無く、放熱の制約からエントリーモデルが中心です。それはつまり価格も安いということなので、もしかしてコンプできるのではという謎の蒐集欲が…。現実問題として、手持ちのPCがみんな、このタイプのカードしか挿さらないビジネス向けスリムタイプPCばかり、ということもありますけれども。

安価なのでだいたい新品を買っていますが、程度のいい中古品が安く出回るようになり、この中では Quadro K620, Radeon R7 430, FirePro W4300 が中古で購入したものです。いずれもDisplayPort出力がメイン。K620はQuadroとしては1.5世代前(K型番なのに中身はKeplerではなくMaxwellなのでw)になりますが、30bit出力はくっきりとした画質で、さすがのQuadroといったところです。FireProは最新のRadeonProに変わる直前の、FirePro最終世代。こちらもまた映像プロ向けのくっきり画質です。Radeon R7 430 はHP社PC向けのOEM製品で、2020年初頭に秋葉原最終処分場にて700円で山積みされ、ちょっと話題になっていたものです。

おおよそ発売順に並べて眺めてみると、メモリがDDR3からGDDR5に変わり、容量も増えていく様子がくっきりと…。この流れだと、LPで1スロット勢の次の狙い目は、Quadro P1000 あたりでしょうか(笑)

(2020-Jun-25追記) Yestonの Radeon RX 550 (640SP) をBanggoodにて新品購入

(2021-Apr-10追記) 中古PCをヤフオクで買ったら挿さっていたOEMの GeForce GT 730 (DPx2) を追記

(2021-Sep-10追記) Yestonの Radeon RX 560 (896SP) をAliExpressにて新品購入

(2022-Oct-30追記) 玄人志向の Radeon RX 6400 をヤフオクで中古購入。補助電源なしでLowProfileに収まるビデオカードはますますレアな存在になりそう…。現時点で購入可能でイマドキの性能を持っているものは、GDDR6世代の NVIDIA T1000 8GB ぐらいしかないかも。2スロット占有なら RTX A2000 12GB も。以前挙げた Quadro P1000 はCUDAコア数からすると NVIDIA T600 が実質的な後継モデルですが、コア数同じでもアーキがPascalからTuringになり、メモリも4GBに増え、性能はグッと上がります。GeForceが異常な高騰ぶりだったので相対的にQuadro系が安く見えてしまう…(錯覚)

(2022-Nov-05追記) 錯覚状態のまま(?) Quadro P620 をヤフオクで中古購入。ELSAのV2(後期仕様)で、長さが150mmに収まっているバージョンです。省スペースPCのPCI-Expressスロットは、LowProfileはもちろんのこと、奥行きの空間も短いものが多く、カードの長さが短いことは重要なファクターのひとつ。ELSAの Quadro P620 製品は、前期と後期でカード長さの仕様が異なり、前期154mm/後期150mm の2種類が存在します。

1 コメント

匿名2023年2月4日 11:33 PM

とても奥が深い記事でした。
まだ製品はないですが、Intel Arc A310 が出てきたらロープロ1スロになりそうですね。

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