知の凝縮
人間文明がこれほど急速な発展を遂げた理由のうち最大のものは、人間が言葉を操り、文字を発明し、自らの知恵を次の世代に残す方法を獲得したことだと思います。一人の人間が一生をかけて蓄積・構築する知恵や知性は、何もしなければその一生の終わりと共に失われてしまいます。口伝でなんとか残そうとしても、その人の周辺のごく狭い範囲にしか伝わりませんし、おそらくは短い時間しか残らないでしょう。
文字の獲得は、この範囲(空間)と時間を飛躍的に拡げ、そこからいわゆる「先人の知恵」の蓄積が始まりました。最近では、存在が予測されていた最後の素粒子ことヒッグス粒子について、その存在がほぼ間違いないと思われる観測データが出てきました。このことは、ヒッグス粒子と同じく「重さ」に関する未知の物質であるダークマターの解明に、大きく影響するのではないかと期待しています。長い年月、といってもたかだか数千年ですが、その間に蓄積された先人の知恵を後の世代の人間が利用し、解釈を発展させてさらに蓄積し…という繰り返しの結果、この世界の構造が少しずつ解明されています。このことにこんなにワクワクするのは、おそらく人間の本能、周囲の状況についての情報をできるだけ多く集め、それを理解することで生命の危険をいち早く察するという最も根源的かつ野性的な本能が、現代社会においては少し形を変えた「知識欲」となって備わっているからなのでしょう。
数学や物理などの科学分野はもちろん、バロックからロマン派、近代・現代音楽に至る積み重ねられた音楽理論についても、このような知恵の凝縮を感じます。出張のときに、できるだけA380やB787など最新鋭の航空機を選んで乗るようにしているのも、より「技術の塊」に触れたいという感情からです。プリウスに乗っているのも8割がたそういう理由からです。燃費はオマケ、でも必然的なオマケですね。
そして、本。相変わらず前置きが長いですが、厚く情報量の多い本からは、このような凝縮された先人の知恵が、オーラのような輝きを放っているのが見えます。(そうなのか)
先日購入した Collins Cobuild Advanced Dictionary を気に入ったので、英語学習者向けの上級英英辞典を比較したくなりました。現時点でこのカテゴリの主な辞書には Oxford, Longman, Cambridge などがあります。
まずは伝統の Oxford Advanced Learner’s Dictionary 第8版。旺文社から出ている日本国内向け版が、全ページフルカラー&DVD-ROM付きという、オリジナル版と差別化した仕様になっているため、より凝縮度の高いそちらを選択。
続いて Longman Dictionary of Contemporary English with DVD-ROM 第5版。こちらは桐原書店から出ている国内向け版もオリジナル版も同じものなので、オリジナルを選択。全ページフルカラー、DVD-ROM付きです。ページ数が一番多いのはこれです。そして、本文の用紙が薄いので、ページ数が多いのに軽く、使いやすくなっています。
もうひとつ Cambridge Advanced Learner’s Dictionary with CD-ROM 第3版。本文はフルカラーではなく2色刷り。フルカラー図版は中央にまとめられています(そこだけ紙質が違う)。他と比べて本文用紙がやや厚く、全体の厚みがかなりあります。フルカラー印刷の技術が向上し、より鮮明なカラー図版を薄い用紙の本文中にも容易に散りばめることができるようになってきており、他の3社の辞書は実際にそうなっているので、やや乗り遅れた感が否めません。
とはいえ、各社ともそれぞれの編集方針があり、載っている単語や解釈に微妙な違いがありますので、どれか1冊に絞ってしまわずに、比較そのものを楽しみながら使うのが良さそうに思います。いえ決して厚い本コレクターではなく。
インターネットでオンライン辞書が無料で使える時代ですので、大きくて重い紙の辞書の出版はほとんど休止状態になってしまいましたが、英英辞典とはまた違うオーラ(まだ言うか)を放つ日本語の大型辞書を、1冊は手元に置いておきたい。でも、比較的新しい版が出ているものとしては、事実上すでに広辞苑と大辞林の2つしかない状態です。そんな中で、1995年の発行ながら、全2500ページがフルカラーという意欲的な辞書がありました。講談社カラー版日本語大辞典(第二版)です。すでに販売終了になっているため、Amazon マーケットプレイスなどで古書を探しました。
大判でカラー図版が多く、カラー印刷を生かした「色の名前」が詳しく掲載されているなど、知識の凝縮度合いがかなり高い辞書です。いえ決して厚い本コレクターではないんですよ。
そしてエントリの最後に、イマドキの集団的知性の代表格であるところの wikipedia へのリンクを貼っておくという、やや矛盾を感じる厚い本紹介記事なのでありました。